前年度の探索的研究より、"「攻撃的言動」に対して柔軟な原因帰属を行い、状況に応じて対処法を使いわけることにより、介護者のストレス反応は軽減されるという"仮説が導出された。3年計画の2年目にあたる本年は、規模の比較的大きな質問紙調査を通して本仮説を検証した。質問紙は1)属性、2)攻撃的言動の経験頻度、3)対処可能感尺度(前年度の調査結果等に基づき独自に作成)、4)心理的ストレス反応、5)ストレッサー尺度、6)自尊感情尺度、から構成した。茨城県、埼玉県、栃木県、東京都の認知症対応型グループホームから計800ケ所を無作為抽出して郵送調査を行い、461名から回答を得た。対処可能感尺度に対して因子分析を行った結果、2因子構造が確認された。第1因子(「共感」)は、攻撃的言動を防ぐために、"利用者を共感的に理解できる"、"利用者と信頼関係を築くことができる"などの自信を表す項目から構成された。第2因子(「割切」)は、攻撃的言動を受けたときに、その経験を"仕事として割切ることができる"、"すぐに忘れられる"などの自信を表す項目から構成された。両尺度は比較的高い信頼性と、一定の基準関連妥当性を有することが確認された。「共感」尺度とストレス反応とは弱い負の相関を示したことから、利用者を共感的に理解する自信を有する者は、ストレス反応が小さいことが示唆された。「割切」尺度とストレス反応とは中程度の負の相関を示したことから、利用者との葛藤を、状況に応じて仕事と割切れる自信を有する者は、ストレス反応が小さいことが示された。以上の結果より、「攻撃的言動」に対しては、暖かく共感的な対応と、冷静で割切った対応という、一見すると相反して見えるような対処を状況に応じて使い分けることが有効であることが示された。以上の結果は本研究の仮説を支持するものであった。
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