本研究では高齢者の転倒防止を目指して、外乱負荷が加わったときのステッピング方略(代償的ステップ動作)に着目した。高齢者の代償的ステップ動作が転倒防止のために、より有効に作用するためには何が必要であるか、また、それはいかなるトレーニングによって増強するかを明らかにすることを目的として、本年度では以下の課題について、データ収集および基礎的な分析を実施した。 1.高齢者の代償的ステップ動作の3次元動作分析 2.高齢者の視力低下が代償的ステップおよび歩容に及ぼす影響 3.高齢者における制限歩行時の歩容と代償的ステップの検討 高齢者を対象として、ファンクショナルリーチ時に姿勢制御不可となって発生する代償的ステップ動作について3次元動作分析を行った。その結果、転倒ハイリスク群の代償ステップは膝関節、足関節の挙上が小さく、ステップ幅も小さかった。また、代償的ステップする際、転倒ハイリスク群は体幹部を鉛直方向に戻すことができず、重心位置が支持規定面より前方へ移動した状態が続く傾向にあった。次に、転倒の要因として挙げられる視力低下が障害物歩行に及ぼす影響を検討し、障害物に回避できなかった際の代償的ステップを計測した。この代償的ステップは、障害物高に関わらず、ほぼ一様であった。代償的ステップは身体重心移動速度に対して反射的に出現するものと考えられた。また、バランスビーム歩行時に現れる代償的ステップ動作を測定した。代償的ステップが現われた被験者は、転倒リスク得点が高い傾向にあり、下肢の筋力低下もしくは整形外科的疾患を有する者が多かった。
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