本研究では高齢者の転倒防止を目指して、外乱負荷が加わったときのステッピング方略(代償的ステップ動作)に着目した。高齢者の代償的ステップ動作が転倒回避に有効に作用するためには何が必要であるか、また、それはいかなるトレーニングによって増強するかを明らかにすることを目的とした。代償的ステップを誘発させる外乱刺激として床振動や傾斜も考えられたが、安全性の点から前方手伸ばし動作による姿勢保持限界後の代償的ステップ動作特性を動作分析により検証した。転倒ハイリスク者および転倒経験者(易転倒性高齢者)は、以下のような代償的ステップ特性を有していた。前方手伸ばし動作によって、姿勢保持限界に到達する距離が短く、代償的ステップが誘発されやすい。代償的ステップ幅は小さく、ステップ高は低い。また、つま先から着床し、着床後の足圧中心は左右方向への動揺が顕著であった。代償的ステップによる姿勢制御には複数のステップを要し、前方へ移動した身体重心の制御に時間を要する。また、代償的ステップ時に体幹を起こすことができない。これらの代償的ステップ特性は、転倒リスク得点、および下肢筋力(足関節底屈、膝関節伸展)、ファンクショナルリーチ、10m歩行と有意な相関が認められた。高齢者に週1〜2回のエクササイズ(歩行・筋力トレーニング、踊り : 約60分)を3ヶ月継続した結果、ステップ幅は有意に改善したが、その他の易転倒性高齢者のステップ特性の多くは改善されなかった。そこで、高齢者の代償的ステップを改善するエクササイズとして、外部からのテンポに調節して行うステップ動作を新たに考案した。この動作では、片足支持局面が含まれ、ゆっくりとしたテンポに応じて動作する動的バランスや下肢筋力の改善が期待できる。今後、このエクササイズによる代償的ステップ改善について検証を重ねていきたい。
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