研究概要 |
近年、精神健康に問題を抱える大学生が増えている。この要因の一つに、学生の生活習慣の乱れによる身体的基盤の脆弱化(ストレス耐性の低下)が挙げられる。本研究では精神健康の問題をもつ学生の生活習慣をアンケート調査し、それに伴って生じると予想される生体内酸化ストレスの増加を評価し、酸化ストレスが治療経過の中でどのように変化するかを調べることを目的としている。 本年度は、健康な大学生54名(男性24名、女性30名、平均20.7±0.9歳)を対象に酸化ストレスと抑うつ、不眠の関係を調べることを目的とした。質問紙(ベック抑うつ尺度・BDI、ピッツバーグ睡眠質問紙・PSQI、不眠重症度評価票・ISI)への回答を求めた。また酸化的損傷の指標にはd-ROMs test (Macron Italy)を用い、午前中に採血した。対象者のうち、酸化ストレスに関係する、生活が不規則な者やサプリメント摂取者、飲酒習慣をもつ者、喫煙者を除いた47名を分析対象とした。 統計分析の結果、d-ROMsとBDIの得点に有意な正の相関があり、酸化的損傷が多いほど抑うつ傾向も高いことが明らかになった(total;r=.303,p=.038,male;r=.061,p=.333,female;r=.333,p=.096)。酸化的損傷と睡眠についてd-ROMs とPSQIの合計得点に有意な関係は見られなかったが、下位尺度の日中の機能の低下と正の相関がみられた(r=.320,p=.028)。さらにISIにおいても下位尺度の日中の機能の悪化と有意な正の相関がみられた(r=.409,p=.004)。 これらの結果は、健常者における抑うつ傾向は酸化ストレス状態に関係する可能性を示唆している。このことから、科学的根拠に基づく精神健康・不眠対策の確立のために、今後、酸化ストレスと睡眠の関係を実験的に検証することは社会的急務であると考えられる。
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