研究概要 |
近年、メンタルヘルス不調をもつ学生が増えている。この要因の一つに、生活習慣の乱れによる身体的基盤の脆弱化が考えられる。本研究ではメンタルヘルス不調をもつ学生の生活習慣をアンケート調査し、それに伴って生じると予想される酸化ストレスの増加を評価し、それらの治療経過の中での変化を調べることを目的とした。一方で予算と対象者の制限から、研究初期段階として健常学生を対象に研究をすすめた。 まず、健常学生54名(男性24名、女性30名、平均20.7歳)を対象に酸化ストレスと抑うつ、不眠の関係を調べた。質問紙(ベック抑うつ尺度・BDI、ピッツバーグ睡眠質問紙・PSQI、不眠重症度評価票・ISI)と、酸化的損傷の指標にd-ROMs testを用いた。分析の結果、d-ROMsとBDIの得点に有意な正の相関があり、酸化的損傷が多いほど抑うつ度も高いことが明らかになった。(r=.303, p=.038)。酸化的損傷とPSQIの「日中の機能の低下」およびISIの「日中の機能の悪化」の項目で、それぞれ正の相関がみられた(r=.320, p=.028、r=.409, p=.004)。これらは、健常者における抑うつ度、日中の機能低下が酸化ストレス状態に関係する可能性を示唆している。 つぎに、健常女子学生7名(平均19.3歳)において、抑うつ度と脂肪酸の関係について検討した。午前10時(空腹)の全脂質中脂肪酸分画を測定し、抑うつ度の評価にBDIを用いた。分析の結果、抑うつとオレイン酸(ρ=-.89, p=.007)、リノレン酸(ρ=-.82, ρ=.023)、エイコセン酸(ρ=.82, p=.024)、ネルボン酸(ρ=.82, p=.023)で有意な相関があり、抑うつ度が高いほど不飽和脂肪酸が低いことが明らかになった。オレイン酸などは抗酸化物質として知られており、抑うつ度が高い者は血中不飽和脂肪酸が低く、酸化に傾いている可能性が示唆された。 今後、対象者数をさらに増やし、うつ病学生にも対象を広げ、「うつおよび不安、睡眠」と「脂肪酸」との関係についての知見を広げていくことは、「学生のメンタルヘルスケア」の観点から大変意義のあることであると考える。
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