研究概要 |
多価不飽和脂肪酸は血中の中性脂肪値を低下させ、虚血性心疾患や高脂血症の予防や治療において、その有効性が示唆されている。一方、高脂血症薬剤であるフィブラート系薬は核内ホルモン受容体であるPPARαとリガンドー受容体複合体を形成し、脂質代謝を制御することで、脂肪酸のβ酸化を誘導・亢進し、血中中性脂肪を低下させると考えられている。本研究では、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有比率の違いがフィブラートの脂質低下作用に及ぼす影響について検討した。 8週齢のddY雌マウスを用い、脂肪エネルギー比を40%とした高脂肪食の餌を作成し、2週間(短期)または2ヶ月間(長期)飼育した。脂肪源として飽和脂肪酸が豊富な油脂のラード、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が豊富なサフラワー油(OA)、多価不飽和脂肪酸のリノール酸が豊富なサフラワー油(LA)、EPAやDHAのようなn-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚油を用いた。それぞれの脂肪源を含む餌を与えた4つの対照群と、この対照群の餌に0.2%(w/w)フィブラートを添加した4つの試験群の、計8群を設けた。飼育後、採血および解剖を行い、血中脂質のパラメーターとしてTG、TC、HDL-Cを、肝機能マーカーとしてAST(GOT)、ALT(GPT)を測定した。肝臓中の脂質代謝関連遺伝子(SREBP-1c、FAS、HMG-CoA reductase)の発現について、Real-Time PCR法を用いて解析した。 体重増加量は、短期、長期ともにフィブラートを添加した群全てで抑制される傾向が見られ、特に、短期ではLAや魚油にフィブラートを添加した群で有意に低い値を示した。白色脂肪組織重量は体重増加量と同様の変化がみられ、フィブラートによる体重増加の抑制は白色脂肪組織の減少によるものと考えられた。肝臓重量はフィブラートを添加した群で著しい増加が認められ、肝機能マーカーであるAST,ALTも増加した。血中TG値はラード群に比べ、すべての群で低下したが、フィブラート添加による影響はラード群でみられ、さらに低い値になった。短期飼育時の肝臓SREBP-1c、FASの発現は対照群、実験群ともに魚油により発現が低下した。HMG-CoA reductaseの発現はフィブラート添加群全てで低下し、特に、OA、LA群ではフィブラート添加による変化が強く現れ、著しい低下がみられた。これらの結果から、脂肪酸の違いがフィブラートの働きに異なる影響を及ぼすことが示唆された。
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