平成18年度、本研究は地域在住高齢者38名を対象に日常的身体活動の量・強度と認知機能との関連性を検討した。本研究は、対象者全員に加速度センサー付体動計を毎日(入浴・就寝時以外)1ヶ月以上装着してもらい、習慣的な1日の歩数、1日の任意強度の活動時間、およびそれらの日間変動を調査した。認知機能に関しては前頭葉機能検査switching RT課題を実施し課題中の脳活性状況についてfMRIを用いて検討を行った。switching RT課題の成績と各種身体活動パラメータ(歩数、強度4および5以上の活動時間またそれぞれの日間変動)との関連性を検討した結果、強度5以上の活動時間および日間変動にそれぞれ10-30分および10-20分を頂点とする有意な曲線関係(逆U字関係)が認められた。このことは、強度5以上(約5Mets:速歩以上)の身体活動を10-30分習慣的(日間変動10-20分)に実施することが認知機能保持増進に有効であることを示唆する。さらにfMRIを用いて強度5以上の活動時間10-30分のグループとそれ以外のグループのswitching RT課題中の平均的な脳賦活状況を比較した結果、10-30分グループにおいて作業記憶に重要とされる前頭連合野背外側部、運動前野、帯状回前部さらには頭頂連合野において有意な賦活部位が認められた。したがって、活動時間10-30分の対象者におけるswitching RT課題の成績は、脳の機能状態が反映された可能性が多いに考えられる。以上の結果から身体運動は脳への酸素運搬能の改善だけではなく、比較的強度の高い積極的な筋の活動によって何らかの機序を介して(例えば神経成長因子に働きかけたり、ドーパミン作動性ニューロンの活動性を高め)前頭葉の機能維持に貢献する可能性が考えられる。 現在、さらに筋力トレーニングが及ぼす認知機能への効果について検討するために運動介入実験の準備を進めている。
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