近年、高齢者における定期的な身体活動が認知機能(特に行動の実行・抑制、問題解決などに関わる実行機能)の維持・低下予防に効果的であるといった報告が数多くなされている。しかしながら、この種の研究において、有効な運動の種類、量、強度、または頻度に関する検討は十分とは言えない。 平成18年度、申請者はすでに地域在住健常高齢者38名を調査した結果、強度約5Mets以上(速歩以上)の身体活動を習慣的に実施している高齢者ほど認知機能が良い傾向にあることを示した。本研究はさらに対象者を63名に増やし結果の再現性を検討した。身体活動の実態調査には腰部に簡便に装着することができる生活習慣記録装置(加速度センサー付体動計)を用い、これを毎日10時間以上少なくとも1ケ月間装着することによって身体活動パラメータ(歩数、活動時間、活動強度)を集積した。認知機能については主に実行機能(前頭葉機能)を推し測る認知課題(Task-Switching課題)を実施し、また脳機能状態を検討するために課題中のfMRI撮像を行った。その結果、1日の活動の中で強度4-6Mets(速歩)の活動時間が長い高齢者ほど認知課題の成績が高いといった関係が認められた。興味深いことに歩数などの他の運動パラメータと認知機能との間には有意な関係性は示されなかった。さらにfMRIの検討では強度4-6Metsの活動時間の短いグループに比べて長いグループの平均的な脳賦活状況は前頭前野背外側部および補足運動野で著しいことが示された。以上の結果から、習慣的に4-6Mets(速歩程度)の身体活動を実施することは高齢者の認知機能保持・低下予防に有効である可能性が示唆された。
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