身体活動や運動が、体力の増進、生活習慣病の予防に有用であることは周知の事実である。超高齢化社会を迎える我が国において、心疾患や脳血管疾患などのいわゆる循環器系疾患への予防対策に対する身体活動や運動の役割について強い期待が寄せられている。その背景として、身体活動に伴う血流の増加などによる刺激が血管内皮機能に加わり、その結果として動脈の伸展性が増大する可能性が示唆されている。運動時に生じる血行力学的応力によって血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の機能調節に関与している一酸化窒素などの血管拡張性物質が放出され、動脈硬化症の発症に対して抑制的に作用していることが知られている。一方で、最近の分子生物学的な知見から、活性酸素種の産出は血管障害に防御的に作用するNOの産出低下や炎症性分子などの発現を誘導することも明らかにされている。平成18年度は、8週間の筋力レジスタンストレーニングによりエンドセリン-1濃度はトレーニング終了後に有意な低値を示し、またプロスタサイクリンやトロンボキサンなどのアラキドン酸カスケード関連物質は筋交感神経活動により有意な高値を示すことを明らかにした。また、動物実験において血管細胞の活性酸素産出酵素活性を惹起させた状況において、自発的運動負荷が活性酸素種や脂質過酸化物の産出を抑制する効果について検討したが、動脈組織全体においては、自発的運動による脂質過酸化の抑制効果には影響を及ぼさない傾向にあるということが示唆された。血管内皮細胞や血管平滑筋細胞などの機能調節に関与している一酸化窒素合成酵素や血管内皮増殖因子など、抗動脈硬化因子で血管増殖作用を有する多くの重要な遺伝子発現が、活性酸素種によつて調節を受けていることが考えられる。また、今年度の研究結果から、血管内皮細胞においては血管収縮を防御する予測予防的な反応が生じている可能性が示唆された。
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