身体活動や運動が、体力の増進、生活習慣病の予防に有用であることは周知の事実である。超高齢化社会を迎える我が国において、心疾患や脳血管疾患などのいわゆる循環器系疾患への予防対策に対する身体活動や運動の役割について強い期待が寄せられている。その背景として、身体活動に伴う血流の増加などによる刺激が血管内皮機能に加わり、その結果として動脈の伸展性が増大する可能性が示唆されている。近年の研究報告では、運動時に生じる血行力学的応力(Shear stress)によって血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の機能調節に関与している一酸化窒素(NO)などの血管拡張性物質が放出され、動脈硬化症の発症に対して抑制的に作用していることも知られている。一方で、最近の分子生物学的な知見から、活性酸素種の産出は血管障害に防御的に作用するNOの産出低下や炎症性分子などの発現を誘導することも明らかにされている。平成19年度は、血管組織において動脈硬化の中心的なメカニズムと考えられる酸化ストレスに対する細胞応答と身体活動、さらには抗酸化性物質との関連について包括的に検討した。すなわち、酸化ストレスと抗酸化性物質が細胞内・細胞間シグナル伝達に及ぼす影響について、培養細胞を用いて遺伝子レベルでその作用について検討を加えた。この培養細胞の実験系により得られた結果に関連して、動物実験において血管内皮細胞における酸化ストレスに対する細胞応答を遺伝子レベルで明らかにした。
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