本研究は、日本海岸気候区のような冬季積雪少日照地域において、居住者の健康・快適と省エネ性を両立した建築の昼光照明の普及を目標に、地域の気候特性・伝統建築を踏まえたハードのデザインの提案(建築形態・窓・電灯照明)、及びハードの性能を引き出すソフトの研究(住まい手の感覚と行動の解明、体験学習教材開発)を目的とし、18年度(繰り越し期間含む)は基礎的データの収集分析を行った。 1)秋田気象台では昼光利用計画に不可欠な照度観測が行われていないため、秋田大学屋上(北緯39.7°、東経140.1°)にて、18年9月から19年9月末までの1年間にわたり水平面全天日射量と水平面グローバル照度を1分間隔で連続測定し、実測日射量と太陽高度の計算値から昼光照度を推定する方法を検討した。その結果、井川らの提案式を用いると、通年では±10%の精度で日射量から昼光照度を推定できることを実証した。ただし、降雪期から早春の2〜4月には推定値が実測値より6〜10%大きい傾向があるが降雪日には推定値が実測値を下回ること、夏季6〜8月には推定値は実測値より3〜7%低いという地域・季節・天候的な特性が明らかとなった。これにより、気象台の日射観測値から昼光照度を推定し、昼光利用計画へ利用することが可能となった。 2)冬季における地域生活者の光環境とその健康性を把握するため、学生・主婦・有職者の生活行動、滞在空間と採光・電灯の状態、曝露照度、鼓膜体温、明るさ感の1分間隔のモニタリングを4〜5日間ずつ行った。その結果、民家の団らん室・寝室の採光・電灯照明と住まい手の生活行動との対応を把握した。また、いずれの職業の被験者とも午前は曝露照度が不足し、日没後には商業施設やデスクスタンドの高色温度・高照度の照明の影響が強く24時間周期の生体リズムが整いにくいという光環境の健康上の問題が確認され、建築照明の改善および生活者への住環境教育の必要性が明らかとなった。
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