本研究の目的は、「高齢者居住施設における個別ケアは、ソフト(ケア)とハード(環境)双方の安定したバランスが達成の条件となる」との仮説より、実現プロセスを解明するとともに、施設自身が実践への振り返りを可能とする診断手法を開発することである。 個別ケアを実現する手法としてはユニットケアがあるが、本年度はユニットケアに関する研修(管理者・実践者向)に関与する機会を得たことから、ユニットケア導入施設における実施状況、平面計画特性など、多面的な把握を行った。得られた知見は以下の通りであった。 1.施設における個別ケア実現は、「ケア」や「環境」の質の向上のみではなく、ケア提供のための「運営システム」の拡充が最も望まれており、かつ実現困難と位置づけられている。 2.「環境」的側面では一定の質を担保している「個室ユニット型特養」においても、06年以降に開設予定の施設の平面計画特性を把握したところ、未だユニットケア実践に不適切な施設が存在することから、計画段階における設計者と運営者の協働にも増して、その段階でのユニットケア理念の理解の重要性が改めて明らかとなった。 3.類似した平面計画を持つ施設においても、「ケア」「システム」の実践の水準により、利用者の生活の質には顕著な差があった。 以上より、個別ケア実現の要素として「システム」が最も重要な位置を占めることからは、組織運営のあり方の再検討が、設計者と運営者の協働の実態からは計画段階におけるアドバイザーの関与の必要性が改めて明らかとなった。また、ユニットケアの実現状況については、「環境」的側面以外にも「ケア」や「システム」の改善余地は大きく、それらについては「個室ユニット型」「従来型」特養を同様に捉えつつ、プロセスを分析することが可能であると考えられ、今後はそれら実践プロセスについて、実践計画書の分析より明らかにする予定である。
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