本年度の研究によって、以下が明らかとなった。 第1に、「ファミリー・フレンドリー」企業の従業員で、自分の会社が「仕事と私生活の両立を支援している企業」だと認識している者は、人事担当者を含めて極めて少なかった。インタビューに応えた従業員は、その企業の仕事と私生活の両立支援についての十分な知識を持っていなかった。また、長時間労働、代替要因が望めないこと等によって、従業員が両立支援を把握する動機付けが、不充分であることが分かった。 第2に、「ファミリー・フレンドリー」企業では、従業員の労働環境の質向上を、企業の社会的責任の為に必要だと考える傾向がうかがえた。なぜ「ファミリー・フレンドリー」施策を充実させているのか、という問いに対して、企業の多くは、収益と結びつけるためではなく社会的貢献のため、と回答した。しかしこれらの多くは、従業員の家族的責任に対する第1次当事者は、従業員本人(女性)とその家族だと回答する傾向にあった。 第3に、人事労務担当者の目指している「ファミリー・フレンドリー」施策と、従業員が希望するそれの間には、概念の非共通性が見られた。例えば、インタビューに応じた女性は、第1子を妊娠した時と、第2子を妊娠した時の周囲への配慮(気遣い・気疲れ)に大きな差があったと答えていた。その理由は、前者の場合は、代替要員の費用が当該部署から捻出されていたが、後者の場合は、全社の経費から出されていたことによる。
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