たん白質は、最終的に小腸においてペプチダーゼによる膜消化を受け、遊離アミノ酸としてのみならずジ及びトリペプチドの形で速やかに吸収される。このペプチド吸収を担っているのが、小腸刷子縁膜微絨毛に局在するペプチド輸送担体PepT1である。 これまでに抗癌剤5-fluorouracil(5-FU)投与によって実験的に小腸粘膜傷害を誘発したモデルラットにおいて、遊離アミノ酸や糖の輸送担体等の発現が低下するのに対し、PepT1たん白質の発現は萎縮した粘膜絨毛に特異的に維持され、これによりペプチド吸収が保持されることを明らかにした。興味深いことに、傷害後の刷子縁膜を用いたウェスタン解析ではPepT1たん白質の分子量がコントロールに比べ高分子領域に移動する傾向がみられた。 分子量変化の主な要因として、(1)糖鎖付加やリン酸化など翻訳後修飾と(2)PepT1遺伝子のスプライシングの違いにより異なる鎖長のmRNAが産生されるか、翻訳のストップコドンが3'側へシフトした可能性が考えられる。そこで本研究では、この分子量変化の分子機序を明らかにすることを目的とした。 ノーザンおよびRT-PCR解析では、5-FU投与による腸管粘膜傷害ラットおよびコントロールラットの小腸PepT1のmRNAサイズに明らかな差は認められなかったため、上記(2)の可能性は低いと考えられた。そこで、両群の小腸より抽出した膜たん白質を二次元電気泳動法により分離した後、ウェスタン解析により比較した。その結果、小腸傷害によるPepT1たん白質の分子量変動が糖鎖付加とリン酸化の違いによる可能性を一部示唆するデータが得られた。PepT1の耐性能は、腸管傷害時における効率的な栄養補給を考えるうえで極めて重要であるため、今後さらに翻訳後修飾を含めた調節機構を詳細に検討する必要がある。
|