研究概要 |
糖尿病患者は細菌感染症に対して易感染性を示すことが知られている。その要因として、高血糖状態が好中球機能に影響を与えているものと考えられるが、詳細な解析はなされていない。そこで、本研究では好中球様細胞に分化誘導した3種類の細胞(dHL-60、dTHP-1、dNB-4)を高血糖モデル系で培養し、それぞれの細胞の機能変化を検討した。HL-60、NB-4細胞の分化誘導にはオールトランスレチノイン酸(ATRA)を、THP-1細胞についてはATRAと顆粒球マクロフアージコロニー刺激因子(GM-CSF)を用いた。それらの分化誘導状態を蛍光標識CD1b, CD14,CD15抗体を用いてFACSにより観察した。その後、高血糖モデルとして、高濃度グルコース(35mM)条件下で最長4日間の培養を行い、比較対照として等量のマンニトール存在下での培養を行った。また、健常人の血糖値を考慮してグルコースを含まない培地に5.5mMグルコースを添加した条件下での培養を行った。生存率はトリパンブルー染色法により、凝集性。空砲形成。脆弱性についてはDiff-Quik(Dade Behring Limited, Tokyo, Japan)染色後に顕微鏡観察により求めた。貪食能は酵母の取り込み率で求めた。スーパーオキシド産生能はNBT法で測定した。高濃度グルコース存在下で培養した好中球様分化誘導細胞において、PMA刺激がtriggerとなり活性酸素産生の機能が異常亢進したことから、高濃度グルコース培養が直接の活性化刺激因子ではなく刺激に対して細胞を過剰反応しやすいストレス状態に導く可能性が示唆された。また、高濃度グルコース培養は標的分子に対する貪食能を低下させた。これまでに得られた結果と合わせ、高血糖によるストレス状態下での活性酸素産生能や殺菌作用の異常亢進は、傷害性因子が標的分子だけでなく周辺の組織へ傷害を生じ、重要臓器の機能障害や炎症性疾患を惹起する可能性が考えられた。
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