ヒト急性骨髄性白血病細胞株由来の分化誘導後の好中球様細胞において高血糖状態によって活性酸素の過剰産生や貪食能の異常活性化が認められた。こうしたことから、高血糖によるストレス状態下での活性酸素産生能や殺菌作用の異常亢進は、傷害性因子が標的分子だけでなく周辺の組織へ傷害を生じ、重要臓器の機能障害や炎症性疾患を惹起する可能性が考えられた。そこで本年度は、糖化反応生成物をマーカーとした消化器疾患のプロテオミクス解析を行った。指標として解糖系や糖化反応で生じるメチルグリオキザール(MG)に着目し、翻訳後修飾タンパク質の網羅的な解析を行った。その結果、ラット正常胃粘膜上皮由来がん化RGK-1細胞およびヒト大腸がん由来HT-29細胞において、熱ショックタンパク質(Hsp25およびHsp27)と予想されるタンパク質のMGによる特異的な修飾が示唆された。ラット正常胃粘膜上皮由来RGM-1細胞やラット正常腸上皮由来RIE細胞ではHsp25を強制発現させてもMGによる特異的な修飾反応は認めらなかったことから、がんや炎症の新たなマーカーとなる可能性が高い。ヒトリコンビナントHsp27のMGによる修飾部位と形式についてMALDI-TOF-MS/MS解析の結果、Arg-5、Arg-96、Arg-127、Arg-136、Arg-188に5-ヒドロ-5メチルイミダゾロン、Lys-114、Lys-123にカルボキシルエチルリジン、さらに、シャペロン機能を発揮するArg-188に抗MG修飾タンパク質抗体の抗原であるアルグピリミジンの生成がそれぞれ同定された。タンパク質導入試薬を用いてHsp27をRIE細胞へ直接導入したところ、過酸化水素処理によるアポトーシス誘導に対してその細胞は耐性を示し、MG修飾Hsp27の導入ではアポトーシス誘導に対してHsp27よりも劇的な耐性を示した。
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