今年度は、塩素の経口摂取が消化管粘膜におけるタンパク質特異的細胞障害性T細胞の誘導に与える影響、およびそれらT細胞反応を誘導する樹状細胞に与える影響を、TM反応に傾きやすいC57BL/6マウスを用いて研究した。また一方で昨年に引き続き調査研究を行い、浄水場からの距離とアレルギー疾患の発症率を調べた。 塩素を0%または0.1%含んだ蒸留水を3ヶ月間マウスに自由摂取させた後、卵白アルブミン(OVA)をコレラトキシンアジュバントと共に2回経口免疫し、脾臓細胞と小腸上皮間リンパ球を採取して、これらの細胞におけるOVA特異的細胞障害性T細胞(CTL)をフローサイトメトリーにより測定した。その結果、塩素を投与したマウスの小腸粘膜のT細胞は、塩素を投与しなかったマウスに比べて、OVA特異的細胞障害活性が高かった。一方、脾臓T細胞においては、塩素投与による影響はみられなかった。次に、塩素を投与、非投与したマウスの脾臓と小腸粘膜の樹状細胞(DC)を採取し、そのサブタイプについて調べたところ、塩素投与したマウスの小腸粘膜においては、Th2反応を誘導する33D1陽性DCが著しく減少していた。これらより、塩素の経口摂取はC57BL/6マウスの小腸粘膜のTh2誘導性DCを減少させ、結果的にCTLや遅延型過敏反応およびIgG2a抗体産生といった、Th1優位な免疫反応を誘導する可能性が示唆された。一方、昨年に引き続いた調査研究において、浄水場に近く、水道水中の塩素濃度が高くなるに従って、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の発症率が高い傾向が示された。以上より、飲水中の塩素は、C57BL/6マウスの消化管粘膜のTh2誘導性抗原提示DCを減少させ、消化管粘膜および全身のTh1免疫反応を過剰に誘導する可能性が示唆された。しかし、ヒトの場合は塩素摂取によりTh1のみならずTh2反応の過剰反応も誘導される可能性があるため、塩素投与がTh2優位なマウスストレインの消化管粘膜のDCに与える影響も今後調べる必要があると考える。
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