工学技術者を育成するための数学教育のあり方を考察する中で、数学的モデリング能力を高めることが有効な方法ではないかという仮説を立て、工学の専門科目の内容を題材とした、数学的モデリングの教材を開発することにした。工学においては、実験における現象から数式を立てて(モデルを作る)、数学的処理(計算)により数学的結論を得た後、現象に照らし合わせてモデルを評価する、といった数学的モデリングの過程が使われることが多い。現状の数学の授業においては、現象を捉えて数式を立てる部分の練習や、得られた結論を現象と比較して、よりよいモデルへと修正するといった部分の経験が少ないため、工学の専門科目などで数学を有効に活用できていない学生が多いと思われる。そこで、電気系分野の基本実験である「抵抗とコンデンサを直列接続した交流回路における電圧測定」を題材とし、数学的モデリングの過程を援用する教材を開発した。乾電池などの直流回路では、複数の抵抗を直列に接続すると、抵抗間の電圧の和が全体の電圧になるが、上記の交流回路においては、抵抗間の電圧とコンデンサ間の電圧の和が、全体の電圧にはならない。交流回路を初めて経験する学生にとって「なぜだろう」と感じる現象である。この現象から理論によって数式を立て、計算で得られた結論は、全体の電圧を表すことになり、数式によって現象を説明することができる。 今後は、さらにこのような工学の専門科目を題材とした数学的モデリングの教材を開発し、アンケート調査などにより教材の有効性を調査する予定である。
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