工学技術者を育成するための数学教育のあり方を考察する中で、数学的モデリング能力を高めることが有効な方法ではないかという仮説を立て、工学の基礎となる物理現象を題材とした数学的モデリングの教材を開発し、教材を用いた授業を実践した。物理や工学においては、時間の経過に伴い、グラフが変化する(動く)ことが多い。しかし、数学の授業で扱うグラフは、継続的に動くグラフではなく、一度平行移動させたら、それで終わりということがほとんどである。つまり同じ三角関数であっても、物理や工学においては「動画グラフ」であるのに対して、数学においては「静止画グラフ」であり、数学と物理や工学との結びつきが弱いという結果を招いている。 そこで、「ある実現象をモデル化して三角関数とし、正弦波y=Asin wxを時刻tの経過によって動くグラフにすることで、数時間後の状況を予想してみよう」という教材を作成した。実践授業では、グラフ描画ソフト「Function View」を使って、学生が自らパラメータtをうまく関数に取り入れ、グラフを動かすことができた。その結果、5人の学生は数時間先の状況を予想し、3時間後の状況を検証できた。実践授業のアンケートでは、「時間の経過でグラフが動くようにするには、どのように関数を設定すればよいかが分かった」「先のことが予想できることは面白いし、実際に予想に近い結果が出たときはうれしかった」という学生の意見が得られ、「将来、数学を活用して問題を解決することがあると思うか」の質問に対しても、62%があると思うと答えた。今後、教材を発展させるために予想と結果がより近づくように、モデルを修正することを取り入れて行きたいと考えている。
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