本年度は 1)繊維が銃着して残存している刀剣の保存処理と科学的調査 2)北海道および九州において確認されている銃着繊維の非破壊調査および破壊調査との結果検討 を中心に研究を進めた。 1)の資料は青森県おいらせ町阿光坊古墳群の刀剣で、繊維のほか漆膜、鞘木が残存する保存状態の良好な資料であった。保存処理は現行の出土鉄製品の手法を用いて行なった。脱塩にはセスキ炭酸ナトリウム5wt%水溶液を用いて約1ヶ月施行したが、刀剣他繊維・漆膜・鞘木などに大きな変化は見られなかった。 クリーニング中に剥落した繊維、漆膜、鞘木の破壊分析を行なった。繊維・漆膜はエポシキ樹脂に包埋し、#400~4000の紙やすりなどを用いて繊維は非破壊分析においてその撚り状況から麻類と推定していたが、破壊分析からも麻類の特徴を見出すことが出来、非破壊分析の結果を追従した。さらに、漆膜からは2層の生漆と思われる塗り構造が確認できた。鞘木においてはモミ属の使用が確認できた事から地域特性や当時の交流を考える一助となった。この結果は中間発表を東アジア国際会館においてポスターで、まとまった結果はICOM-METALに論文投稿し査読を受けている。 2)本経費で購入した実態顕微鏡を用いて、北海道および九州の銹着資料の非破壊分析を行なった。これらの資料の中にはこれまで所蔵部局で繊維資料の破壊分析が行なわれているものもあり、それらの結果とも照らし合わせた考察を継続的に行なっており。現時点では非破壊分析において、繊維素材推定を「撚り」「密度」「繊維の太さ」で行なっている。大部分の資料においては両者の結果は合っているが、一部非破壊分析結果と異なっている部分もあり、今後の課題となる。この部分を明確にすることも本研究の意義であると考えている。
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