研究概要 |
本研究は, 中国新彊ウイグル自治区天山山脈最高峰の托木尓(Tomur)峰の南方から, タリム盆地に流下する台蘭(Tailan)河の河谷を対象として, 氷河の前進・後退期と段丘形成時期を対比さ章ながら, 断層変位を地形発達史的に議論することを目的とする。 台蘭河では, およそ14〜15kaよりも後に形成された複数の段丘は, 扇状地を下刻した谷の中に形成される。既往研究や研究代表者の未公表データも含めて比較検討を行った結果, タリム盆地に流入する諸河川についても共通して観察される事象であることが分かった。これは, 最終氷期最盛期(LGM), 以降天山山脈から流下する河川流量が次第に減少する過程で, 扇頂部付近で河道の固定と開析が起こったものと推測される。さらに, ネオグラシエーションや小氷期などの寒冷期・温暖期のサイクルの中での一時的・短期的な河川流量の減少・増加が, 開析扇状地中の段丘形成に寄与していると考えられる。 第四紀後期の地殻変動を定量的に検討するためには, 河成段丘面などの変位基準地形の形成年代に基づいた編年が必要であるが, 極度に乾燥した気候の下では, 植物遺体の入手が困難であるため段丘編年が難しい。本研究から, 開析扇状地中の段丘に着目することで, 乾燥地における活断層の活動度の定性的な推測が, ある程度可能であるという結論に達した。つまり, 開析扇状地内の河成段丘に累積変位が見られる場合には, LGM以降に複数回の活動があったと判断できる。台蘭河に位置する活断層の場合には, 谷口から扇状地に張り出したターミナルモレーン(14〜15ka)を切る土石流堆積物(5.0±0.3ka)とその開析谷形成された複数の段兵を変位させていることから, およそ5ka以降複数の活動を繰り返し, 最新の活動は歴史時代に起こった可能性が高い。
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