本研究は、新規一分子イメージング技術を使った実験結果をもとに、真の生体分子およびその動きを学べる視覚教材の開発を目的としている。平成18年度では、低温環境下でリアルタイム・ナノメートルの時間・空間分解能で画像化を行う新しい一分子イメージング技術として、低温走査型プローブ顕微鏡の開発を試みた。走査型プローブ顕微鏡は高い空間分解能で生体分子を直接観察するポテンシャルをもっている。そこで既存の温度制御範囲外である、水の凍らない範囲の溶液低温環境下(T=4℃〜RT)で、高速の生体反応を緩慢化させることに着目した。ゆっくりとした反応にすれば、溶液環境下で生のまま生体反応を分子レベルで直接観察が可能となると考えた。実際の装置構成としては、低温冷却装置を使って、試料部の冷却のみならず、検出部と制御部も同時に冷却し、各構成部間の温度差を生じさせないように冷却環境を工夫した。その結果、光軸のゆがみにより正確な像を取得できない、結露により電気回路がショートする、などの問題を解決することができた。現段階では、走査型プローブ顕微鏡の測定試料としてよく用いられるDNA分子であれば、十分満足な観測像を得ることができることを確認できた。しかし、低温冷却装置からの振動ノイズの影響、試料やカンチレバーの交換等の操作がより煩雑になるなどの、新たな問題点が生じることがわかった。ダイナミックな生命現象を分子レベルで直接観察するためには、より安定な動作等を保証するためのさらなる改善が今後必要であり、継続してこの課題を解決していきたい。
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