本研究は、新規一分子イメージング技術を使った実験結果をもとに、真の生体分子およびその動きを学べる視覚教材の開発を目的としている。平成19年度では、酵素反応等の生命現象の重要かつ興味のあるテーマについての可視化実験を試みるため、生体分子の固定化方法について研究を中心に実施した。一般に、タンパク質などの生体分子が固体表面に接触しただけで、その構造が歪み、生体機能を失ってしまう。また、生体分子の配向制御もしなければ、基板との立体障害によって生体反応がすすまない。生体分子を失活させずに任意の配向で固定することが必須である。これを解決するために、遺伝子組み換えと基板修飾を用いて、糊しろを創って化学的に固定化する工夫を行った。生体分子の糊しろとして、6個のヒスチジンを末端に発現させた融合タンパク質を遺伝子組み換え技術を使って創った。他方、基板側の糊しろとして、二価性架橋剤を基板上で自己組織化させて有機薄膜を形成させた。この膜には、タンパク質を基板に接触させないための「ソフトなベッド」としての役割もある。糊となるNi(II)を加えて錯形成させれば、複雑な高次構造を持つ蛋白質を活性を損なわずに固体表面に化学的に結合させることが可能となった。さらに、有機薄膜の表面密度を制御して、任意の量の生体分子を固定することができた。こうした有機薄膜中心の固定化技術の研究と同時に、次年度以降を予定しているITを利用した視覚教材化も試行し、成果をあげた。
|