研究概要 |
●課題開発 幼児の言語作動記憶を測定する課題(ListeningSpanTest)を開発した。視空間作動記憶課題については成人対象の視空間作動記憶スパンテスト(VisualWorkingMemorySpanTest:以下VWMST)を幼児対象に改良中である。 ●予備実験 手続き:成人10名を対象に個別実験を行った。言語作動記憶課題(ReadingSpanTest),視空間作動記憶課題(VWMST),文章理解課題(問題文:空間情報の有無を設定,質問文:再認課題及び推論課題)を実施した。 結果と考察:VWMSTの成績(r=.86,p<.001)及び反応時間(r=.67,p<.05)と空間情報無し条件の文章理解の成績との間に正の相関が認められた。視空間作動記憶容量が大きいほど空間情報無し条件下での文章理解の成績が高くなった。空間情報無し条件では,テキストに具体的状況が描写されておらず,読者が自ら状況を構成していく作業がより求められる。視空間作動記憶容量が大きいほどテキストを読み進めながら状況を構成する作業を行いやすいことが明らかにされた。一方,WMSTに対する反応時間が早い方が文章理解の成績が低くなることから,文章理解においては視空間作動記憶の意識的な制御が関連することが推測される。また,推論問題では,作動記憶容量の大小にかかわらず,空間情報有り条件よりも空間情報無し条件の成績が高くなった。このことは,成人の場合,空間情報がテキストの表象の形成をより容易にし,予測をしながらのトップダウンの読みから読み飛ばしが生じたのに対し,空間情報が無い場合では一字一句を踏まえながらのボトムアップの読みが求められ,テキストに忠実な表象が形成されたと考えられる。幼児の場合は空間情報が文章理解を促進すると考えられ,成人とは異なる結果が予測される。
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