GABA(A)受容体分子を過剰発現するPRIP-1/2分子のダブルノックアウトマウス(DKO)では、PRIP-1/2分子がバレル皮質錐体細胞のGABA_A作用を変化させ、その結果としてシナプス可塑性に影響を与える可能性が示唆される。本年度は、光学的膜電位測定法及びホールセルパッチクランプ記録法を用い、PRIP-1/2分子がGABA_A作用にどのような影響を及ぼすかを検討した。 1.DKOマウスにおける皮質内興奮伝播様式の解析 野生型マウスのバレル野薄切標本において、第IV層に電気刺激を与えると、第II/III層においてカラムを越える速い水平伝播が見られた。Bicuculline存在下で同様の実験を行うと、第II/III層における水平伝播が拡大強化されると伴に、第V/VI層への垂直伝播が明らかとなった。一方、DKOマウスにおいては、野生型に比して、皮質II/III層での水平方向の興奮伝播の範囲が限局的で、時間経過も速かったため、側方抑制が強力であることが示唆された。Bicuchlline存在下では、水平方向の興奮伝播の範囲及び時間経過は、野生型よりも顕著に拡大したことから、DKOマウスでは、野生型に比してGABA_A抑制系が強い作用を有していることが示唆された。 2.DKOマウスにおけるGABA_A受容体チャネル電流のキネティクスの解析 皮質II/III層錐体細胞からホールセル記録を行い、同細胞へGABAをパフ投与してGABA_A受容体チャネル電流を誘発した。DKOマウスでは、野生型に比して、脱感作が顕著で、パフオフセット後には、顕著な後反応が観察された。この後反応は、脱感作が強いほど増大した。DKOマウスでのこうしたGABA_A受容体チャネルの特性が、カラム局所回路での側方抑制の強化に関与し、シナプス可塑性に影響を与える可能性が示唆された。
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