研究概要 |
1.Fe(II)に対して高選択的な配位子を探索し,TSKゲルに1,10-フェナントロリンを固定化したキレート吸着体TSK-phenの合成法を確立した.本キレート吸着体を充填したカラムは,Fe(II)をほぼ定量的に捕集することを確認した.また,海水pH条件下では,Fe(II)は容易にFe(III)へ酸化されるが,1mM塩酸ヒドロキシルアミン共存下では安定であることがわかった.より高選択的なキレート吸着体の設計,自然水中のFe(II)の定量条件および現場濃縮の検討を進めている. 2.沿岸水中Fe(II)の定量を妨害するFe(III)を含めた微量元素群の多元素同時定量法を改良した.種々の還元剤を用いてFe(III)からFe(II)への還元を検討したところ,1mM塩酸ヒドロキシルアミンが最適であることがわかった.本還元法を用いることで,沿岸域におけるμMレベルのFeの定量法が確立された.現在,AlおよびCoを定量的に回収する条件検討を進めている.μMからpMレベルの広範な濃度領域にわたって,高精確度(5%以下)のAl,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,CdおよびPbのデータを提供できる分析条件の検討を進めている. 3.TSK-8HQカラム濃縮-蒸発乾固-ICP-質量分析法による海水中Zr,Hf,Nb,TaおよびWの多元素同時定量法を世界で初めて確立した.種々の海域でこれまでに採取した海水試料の分析に着手しており,海洋におけるこれらの元素分布の解明を進めている. 4.Feの生物取り込みに影響を及ぼしうる生物活性微量金属の粒子態の定量分析法を確立した.本法は,マイクロウェーブ加熱分解およびオンラインカラム濃縮-ICP-質量分析法に基づいており,必要試料体積が従来法よりも少ない点がデータ生産性の向上に寄与することがわかった.亜寒帯北西太平洋表層における粒子態Co,Ni,Cu,Zn,CdおよびPbの分布を世界で初めて明らかにした.
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