本年度はこれまで調査してきた、干潟-浅海域の赤潮形成種(珪藻・渦鞭毛藻類)に対する潮流の影響について、共同研究者と打ち合わせを重ね、調査結果を基に有明海の干潟-浅海域での珪藻類の再懸濁、沈降量を定量的に評価するモデルの開発を行った。さらに、有明海湾奥部に広がる干潟域の基礎生産を担う底生珪藻類の季節変化について、優占種の季節変化を明らかにした。また底生藻類の安定同位体比は現場で藻類を分離採取することが困難であったため、ほとんど明らかにされてこなかったが、本研究では現場で藻類と同程度の微小なガラスビーズなどを用いて採取する装置を作成し、藻類を分離採取することに成功した。この方法で採取した藻類の炭素・窒素の安定同位体比を分析し得られた結果について、同位体値の季節変化を駆動する要因について解析を進めた。 分析の結果、干潟域の底泥サンプルの顕微鏡観察から、有明海の干潟域に出現する羽状目珪藻の優占種の多くが新種であることが判明した。これらの成果については、一部日本珪藻学会で発表した。さらに、干潟域に生息する底生珪藻類の安定同位体比は、底生藻類の現存量が高い冬〜春に^<13>C値が増加し、現存量の低い夏に^<13>C値が低下するといった一般の傾向と異なる結果が得られた。底生藻類の^<13>C値の季節変化を駆動する要因について解析を進めた結果、干潟域では1) 夏季は底生藻類の生産は活発であるが、ベントスによる捕食圧が高く、藻類の現存量は低く維持され、結果的に炭素律速にならず^<13>C値が低くなること、2) 春季は逆にベントスの捕食圧が大変低く、底生藻類の現存量が高く維持され、藻類が炭素律速となり底生藻類の^<13>C値が高くなると推測された。
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