本年度は、まず塩素化多環芳香族類(CIPAHs)ならびに臭素化多環芳香族類(BrPAHs)の標準試料を作製し、分析条件等の精度管理の検討を行った。確立した分析条件を基に、過去10年分の大気粉塵試料を用いてClPAHsの大気長期変動を調べた。その結果、ClPAHの親化合物(塩素を有さないPAH)は過去10年間で緩やかな減少傾向を示したのに対して、ClPAHsは6-chlorobenzo[a]pyreneを除いてほぼ一定か、もしくは若干の増加傾向であることがわかった。また、濃度組成比を比較したところ、親化合物PAHにおいては過去10年間で大気粒子中の組成比に大きな変動は認められなかったが、ClPAHsでは6-chlorobenzo[a]pyreneの組成割合が減少する傾向であった。この結果より大気中のClPAHsの発生源は過去10年間で変化していることが示唆された。さらに得られた環境濃度データを多変量解析したところ、ClPAHsの主要な発生源は焼却施設であることが推測できた。そこで、ClPAHsの発生源探索の一環として、食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデン製)を用いて実験室内燃焼実験を行い、燃焼ガスにおけるClPAHsの生成能を調べた。その結果、7種のClPAHsが食品用ラップの燃焼ガスより生成することが確認された。検出されたClPAHsは2〜4環系で、比較的低塩素置換体であったことから、食品用ラップの燃焼過程では脱塩素を伴う環化が速やかに進行することが推測された。
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