研究概要 |
本年度は,昨年度作製した11種の臭素化多環芳香族類(BrPAHs)の標準試料を用いて,大気浮遊粉塵における環境実態調査を行った。その結果,環境大気中から7種のBrPAHが検出され,その濃度は0.017・156pg/m3であった。季節変動をみると,BrPAHsは大気中のPAHsと同様に冬季に高濃度,夏季に低濃度となる傾向が見られた。夏季に低濃度となる原因の一つとして,太陽光による光分解が挙げられる。そこで,大気粒子表面を模した光分解装置を用いてBrPAHsの光分解実験を行ったところ,環数が大きくなるにつれてBrPAHの光安定性が増す傾向が見られた。 次に,塩素化多環芳香族類(ClPAHs)の生体影響評価の一環として,ダイオキシン受容体(AhR)との結合能を遺伝子組換え酵母を用いて評価した。その結果,3〜4環系のClPAHsは置換された塩素の数が増加するに従いAhR活性が増加する傾向が見られ,一方,4〜5環系のClPAHsでは塩素数の増加に伴いAhR活性が低下する傾向が見られた。このことは,CIPAHsのAhR活性はその分子の大きさに依存していることを示唆している。そこで分子の大きさを表す指標の一つである溶媒接触可能表面積(SAS)を計算し,それぞれのClPAHのSASとAhR活性との構造活性相関を調べたところ,SASが350A2/moleculeをピークとするAhR活性至的表面積が存在することを明らかにした。さらにClPAHsのAhR相対活性値(TEF)と大気中濃度からClPAHsの曝露リスクを評価したところ,ClPAHsによる曝露リスクはダイオキシン類の30〜50倍高いことがわかった。
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