本研究は、亜熱帯沿岸域の金属(鉄・マンガン)供給およびその形態におけるマングローブ林の役割を解明することを目的に、炭素電極を用いた電気化学的測定法による鉄・マンガン錯体の検出を行ってきた。その結果、サンプリング時期によって、同地点のサンプルにおいてピーク検出されない結果が得られた。そのため、炭素電極の再検討をおこなった。比較炭素電極にはGC電極、PFC電極を用い、昨年度より使用しているGRC電極との検出値を比較した。その結果、昨年より使用しているGRC電極が、最も感度が高いことが明らかになった。また、マングローブ底泥間隙水に見られる+0.19Vの還元波を詳細に解析した結果、マングローブ底泥由来マンガン錯体と考えられたピークは、マンガン錯体のピークだけではなく、その他の物質のピークも重なっていることが考えられた。このピークは、酸化還元波の可逆性が低いため、金属錯体ではなく有機物である可能性が考えられた。マングローブ由来鉄錯体、マンガン錯体の沿岸海域への供給を明らかにするためには、マングローブ底泥の浸透流を解明することも必要である。また、マンガン錯体等の現場測定を可能にするためには、現場の塩分濃度測定が必要であることが昨年度の結果より示唆されたことから、現場の塩分濃度を連続的にモニタリングする装置を作成し、マングローブ底泥の塩分濃度連続測定法を検討した。この結果、マングローブ底泥深度30cm下の塩分濃度は潮の満干によって大きく変動しており、またマングローブ林のサンプリング位置によって塩分濃度変化が大きく異なることがわかった。これらの結果より、マングローブ底泥由来錯体の沿岸海域への供給は、潮位変動によって、マングローブ底泥の様々な地点から供給される可能性が示唆された。また、マングローブ錯体の検出変化の原因の一つとして、マングローブ底泥における浸透流がマングローブ底泥由来錯体形成に大きく影響していると考えられた。
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