標高に伴う大気圧の変化が湿地からのメタン放出に及ぼす影響を評価するには、実際の現場での調査の他に、大気圧を調整できるような実験系を確立して気圧の影響を検証することが極めて重要である。植物を長期間栽培でき、かつ大気圧の調整が可能な実験系が存在しないため、初年度に、大気圧が調整可能な実験システムの開発を行った。開発した実験システムは、円筒状の大型チャンバー(内径600mm×高さ1000mm : アクリル製)で、ダイヤフラムポンプとPID制御による大気圧調整機からなり、チャンバー内の気圧を1013hPa(低地の大気圧)から約500hPa(標高6000m程度の大気圧)の範囲で維持することが可能である。開発したシステムの特徴は、常にチャンバー内のガスを排気しつつ、同時にチャンバーの外部から大気をわずかに導入し続ける方法(半閉鎖型気圧調整法)をとることで長期間連続的に大気圧環境を維持できる点にある。H18年7月に行った試運転では5ヶ月間連続的に低気圧環境(600hPa)に維持しつつ、植物を栽培することに成功した。その後、植物栽培に必要な水や養分の供給は、チャンバー内部から外部へと通じるコック付きチューブを経由して定期的に行えるように改良した。なお開発した実験システムは、国立環境研究所内にある温度、湿度および光条件を制御できる大型実験棟に設置しており、大気圧以外の環境条件の制御は大型実験棟を利用して行った。 これに加えて、高山湿地が多数存在するチベット高原湿地および高山草原にて実際にメタンおよびCO2フラックスの測定を行った。諸事情によって、メタンガスを採取したバイアル瓶を国内に持ち込むことが出来ず、メタンフラックスの定量化は出来なかったものの、CO_2フラックスに関しては、気圧の影響はほとんど見られないことを明らかにした。
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