研究概要 |
昨年度に引き続き,今年度も二次元オプトードを使い,堆積物-水境界における酸素濃度分布の可視化を行った。今年度は、海洋研究開発機構の「なつしま」NT07-19航海において、下北半島沖水深970mの海底をフィールドとした調査を行い,ここで酸素濃度の二次元プロファイルを測定した。同時に,ベントスの分布と酸素濃度分布の関係を調べた。ROVによる海底観察の結果,この海底で最も多く見られたベントスはクモヒトデであり、生息密度もきわめて高いことが明らかになった。また,水中の溶存酸素濃度は37.7μM(0.85ml/1)と低く,酸素濃度分布の二次元プロファイルから,生物撹乱が及んでいない箇所では,表層からわずか3.5mmの深さで酸素が枯渇することが分かった。しかし,クモヒトデによる海底の撹乱によって,幅数cm,深さ7mm以上の範囲に酸素が供給されることが明らかになった。すなわち,下北半島沖の海底では,低酸素濃度であるにもかかわらず,堆積物-水境界内はクモヒトデの活動によって酸素が積極的に供給される状態にあるため,有機炭素の好気分解が活発に促進している可能性がある。一方,相模湾西部の海底は酸素濃度が51μM(1.15ml/1),酸素が枯渇するまでの深さは5〜7mmであり、主なベントスもゴカイであった。ゴカイはクモヒトデと異なり,海底を撹乱する範囲はクモヒトデより狭いが,ポンピングによって巣穴の中に新鮮な海水を取り込むため,酸素は数ミリという範囲内の深さ1cm以深まで供給されるという特徴がある。以上の観測、解析結果から,底生生物の種類と活動様式の違いが,海底における親生物元素の循環過程,とくに有機炭素の好気分解過程に大きな影響を与える可能性が示唆された。
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