研究概要 |
日本近海(高知沖,下北沖)において採集されたプランクトンネット試料中,およびオホーツク海堆積物中の放散虫骨格(計7種類)を拾い出し,過酸化水素および硝酸によりクリーニングを行った。乾燥後,真空引きをしながら樹脂に包埋し,研磨シートを用いて鏡面研磨を行った。その際標準物質としてNISTガラスを,同時に樹脂に埋め込み分析に用いた。 Nano-SMS(二次元高分解能二次イオン質量分析計)分析を試みたところ,分析が可能な種と困難な種類に分かれた。試料表面を清浄化するためのプレスパッタリング中に,骨格の細いもしくは薄い種では骨格のほとんどが失われ,イオン強度が測定中に著しく低下してしまった。一方,厚い骨格を持つ種に関しては,イオン強度が低下することなく測定可能であった。本研究では,はじめて放散虫個体レベルでA1,Fe,Geの定量を行った。アルミニウムや鉄は,放散虫が骨格形成時に取り込んだものではなく,二次的に付着したものと考えられているが,先行研究に比べて1/10程度と汚染の程度を抑制できた。特に,堆積物試料を扱う際にNano-SIMS分析が有効であるが示された。珪藻殻のGe/Si比は,珪酸塩利用効率指標として用いられている。放散虫骨格のGe/Si比は,珪藻と比べてかなり低く(珪藻:約0.6;放散虫:約0.1),今後の検討が必要である。 SIMS分析では,測定物質の組成・構造に起因したマトリックス効果によるイオン強度の変動がおこるため,測定物質と組成、構造か類似した標準物質を用いる必要がある。現在NISTガラスを,標準物質として利用しているが,放散虫骨格と組成や構造の類似の点で不安が大きい。そこで,実験室内の一定条件下で培養した珪藻殻(放散虫と同じアモルファス珪酸塩)の湿式分析を行い,標準物質として利用すべく準備を進めている。
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