研究課題
平成20年度は野生生物の重金属濃縮メカニズム解明と生態影響評価の試みを目的とした本研究の最終年となる。そこで、野生生物の重金属濃縮の解明をこれまで通り続行させながら、研究のまとめ及び発表にも重点をおいた。化学分析の対象は、当初の予定通り、野生動物の中から、我が国に分布するシカ類やジャワマングースに加え、ベトナム及びスリランカの魚類を選択し行った。シカ類からはイタイイタイ病の発生が疑われている兵庫県生野鉱山周辺で捕獲された個体より、いまだ極めて高濃度のカドミウムが検出され、今後の調査の必要が示唆された。ジャワマングースは高齢のメス胎内の仔に極めて高濃度の水銀が移行するメカニズムが明らかとなった。魚類を用いた検討では、スリランカの南部沿岸で採取された魚類から極めて高濃度のヒ素を検出し、同時に行った都市部不妊患者の精漿分析とあわせ、スリランカにおけるヒ素汚染の影響が懸念された。研究全体のまとめとして、ジャワマングースに関して水銀の濃縮器官であることを明らかにした肝臓における細胞内分布を検討した報文を公表し、また、野生動物の微量元素分析を行うことで、本研究の主要テーマ、種に特有な生物濃縮と生態影響評価の試みを行ったタイワンリスやハクビシンのケースを哺乳類科学に公表した。また、生態影響に関して、レビューを求められたカドミウムのリスク評価書に執筆を行った。本研究の結果、現在の地球環境で水銀やカドミウム、ヒ素といった重金属類・生態微量元素は人為活動の影響で、天然由来を上回る負荷がなされ、野生生物は種特異的に蓄積・濃縮している現状が明らかとなった。今後も、野生生物の綿密なモニターと、高精度の生態影響評価の改良が必要と結論された。
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Environmental Toxicology and Chemistry 27
ページ: 1354-1360
哺乳類科学 48
ページ: 169-174