海洋保護地域(MPA)が設定されているソロモン諸島ウェスタン州ロヴィアナ地域を対象とした。調査許可等を取得し、10月に対象村落から調査参加への同意を得て、調査を行った。日本では、過去(2001年)から本2006年までにロヴィアナで収集してきたデータを分析した(後半に記載)。また、衛星画像等をGISソフトに取り込み、空間情報を収集・分析するデータベースを作った。さらに、小型GPSと心拍計を用いた活動追跡手法を試み、それを空間情報として扱えるようにした。 1.海洋保護(MPAの設置)を受け入れた5村(NH、K、B、O、D)と、受け入れいれていない1村(NB)で横断的比較をした。5村の中でも、保護の対象、保護開始年、住民の態度(保護ルールを守るか)、居住地の条件(大型魚の多い外海に近いか)や近代化の程度に違いがあった。 2.6村で成人の一日当たりのエネルギーと主要栄養素摂取量を比較した結果、予想とは異なり、保護を受け入れていないNB村が最も低かった。保護を受け入れた村の中では、居住地が外海に面してかつ保護ルールをよく守っているNH村が高く、こことNBの間には有意な差があった。海産物由来のタンパク質に限っても同様の結果だった。 3.上記2について、外海に面していても保護ルールを守らないB村では摂取量が低く、また条件が悪く保護ルールも守らないが現金経済化したD村では購入した海産物から十分な栄養を得ている傾向があった。 4.これらから、海洋保護開始後2-4年時点では、住民が漁労に依存している社会でも、海洋保護はエネルギー・栄養素摂取に悪影響を及ぼさないことが示唆された。逆に、保護されることにより、海洋生態系が保全されて保護地域外でより多くの海産物を得られる可能性もあった。また、海洋保護の受入だけでなく、社会的、経済的、生態的条件が、村と村の差をつくっていることも示唆された。
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