19年度は、昨年度に整理した「資源の呪い」理論をよりテーマに沿ったものに再整理した上で、これまでのフィールドワークの成果を位置つげる作業を行った。この作業は、栗田英幸(2008)「『資源の呪い』へのオルタナティブ」中村則弘・栗田英幸『等身大のグローバリゼーション:オルタナティブを求めて』明石書店において公表した。 また、これまで行ってきた失敗事例の調査にする比較対照としてオーストラリアの事例を対峙させるため、オーストラリアでのフィールドワークを実施した。まだ、本調査はまだ途上であり、20年度により詳細な調査を予定している。このオーストラリアでの初期調査では、これまで文献にて調べてきた成功言説と異なり、フィリピンでの失敗例との類似点が顕著に浮き出ることとなった。オーストラリアでの失敗に対する分析を今後進める必要がある。 オーストラリアでの失敗は、期待と反してはいたが、逆に筆者の仮説を大きく支持するものでもある。この結果は従来の「資源の呪い」研究で取り上げられるマクロ経済的要因のみならず、筆者の仮説で取り上げるミクロの集合的な制度変質の存在を示唆している。 フィリピンの事例として取り上げているサンロケダムの調査結果は、栗田英幸『サンロケダム闘争史:なぜ、大規模資源開発は失敗するのか?』愛媛大学総合政策学科としてまとめ、公刊している。本書は、筆者の科研での仮説を部分的に論証するのみならず、開発援助の抱えるディレンマやその克服のための知見、特に日本の開発援助のあり方やNGOのかかわり方への知見を数多く含む非常に重要な文献であると自負している。
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