研究概要 |
本研究は, 音環境を「風景」と捉え, 音環境の経験の歴史性・地域性に注目して, 良好な音環境を保全するためのマネジメント手法について考察しようとするものである。平成20年度は, 前年度に引きつづき京都市の伝統的織物産業地域の音環境を事例とした検討を進めた。地域内の音環境調査を実施し, 過去の音環境の記録と比較することによって, 地域の音環境の変遷について検討した。また, 前年度までに実施した自由記述式質問紙調査および聞き取り調査の結果を分析し, 地域住民が産業音およびその他の音環境について有している感性や社会規範について考察した。さらに, 行政や業界団体が産業音に関してこれまでどのような対応を取ってきたのか, 関係者へのヒアリングをおこなった。その結果, 本事例地域では,(1)地区内での製織が盛んに行われていた時期には, その物理的・社会的状況を背景にして産業音を受容すべきとする社会規範が形成されていた,(2)そうした中においても産業音に関する苦情や問題が生じており, 行政や業界団体が一定の対応を試みたが, その効果は限定的であった,(3)製織が減少する中で社会規範も変容し, 製織業者は自主的な対応を迫られている, 等の知見を得た。これらの知見から, 地域の音環境のありようにおいては, 音の物理的特性とともに, その音が聞かれる社会的文脈が重要な要因となっているということができ, 地域音環境のマネジメントは音環境に関する社会的文脈のマネジメントという側面を持つ必要があることが示唆された。
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