21世紀を向かえ、限りある資源を大切にするために循環型社会の実現が重要である。それに伴い、廃棄物の処理→再利用という動きが今後、ますます加速すると考えられる。しかしながら、廃棄物の処理過程においては、ダイオキシン類の発生に代表されるような予想だにしない処理副産物質の生成が伴う。これら副産物質について、適切なリスク評価がされないまま環境中に放出されることにより、我々の生活が脅かされることが危惧される。一方で、従来の生体影響評価は主に生物の生死によって判断してきたため、(1)感度が低い(2)生死以外の情報がない(どのような影響で生物死が起こるのか不明)(3)判定までに時間がかかる等の問題点があった。特に影響物質の取りこぼしを防ぎ環境中に放出させないようにするという観点より、検出システムの感度は重要であると考えられる。環境と調和した健全な経済活動と安全・安心な国民生活の実現を図るために、高感度影響評価システムの構築が望まれている。そこで本研究では生体影響評価について従来法では全く考えられていない生体分子の動きに着目した新規高感度評価系の構築を行うことを目的とした。 細胞は外界からのストレスに応じて、種々の防御タンパク質を発現する。ストレス応答タンパク質の一つであるp21は熱ストレス、紫外線、電雌性放射線、化学物質等によりDNAが損傷を受けると細胞周期の進行を停止し、修復を促すために発現してくる重要なタンパク質である。このようなことより、p21が新規高感度評価系構築のためのターゲット生体内分子になりうると考えた。本研究では上記目的を達成するためにストレス応答分子であるp21に着目し、P21-GFPの恒常発現細胞CHO-p21を作製した。CHO-p21細胞の基本的性質を把握するためにp21のinducerとしては既知であり、かつ変異原性があるとされている熱処理による検討を行った結果、熱処理による影響を細胞の生存率を指標にした場合には検出することができなかったが、p21-GFPの発現を指標にすることで、非常に感度よく検出することが可能であった。今後、環境汚染物質等をはじめとする化学物質を作用させ、当システムが有害化学物質のスクリーニング等の際に有効であるかどうかを検討する予定である。また、ストレス負荷後、p21-GFPはクロマチン画分において集積しfociを形成することが判明した。このfociがどのような理由で形成されているのか(DNA損傷部に集積しているのか、クロマチンの高次構造が崩れるために集積するのか等)については今後の検討予定である。
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