本研究では、触媒の温度上昇や電場を生じず、かつ二次電子の生成密度が制御できる初期平均エネルギーが数十keVの電子ビーム(EB)を用いて、放電誘起触媒として期待されるTiO_2(Ag担持TiO_2)及びPt触媒(Pt担持Al_2O_3等)を用い、触媒表面の活性化現象を芳香族有機物やその分解生成物の減少量及び生成する二酸化炭素(CO_2)量から明らかにすることを目的とする。 平成18年度では、本研究の遂行において必要不可欠な、電子照射部の分離、温度制御照射・触媒反応容器の製作を行い、これらを有機的に組み合わせた触媒表面反応解析システムを構築した。また、本システムを用いて照射場に導入した触媒等を通過した後のキシレン含有空気の成分分析の結果からEB誘起低温触媒反応について調べた。この結果、TiO_2及びAg担持TiO_2の場合では、その表面上でキシレンや一酸化炭素はほとんど酸化されず、キシレンからの照射生成物のみが酸化されて選択的にCO_2となった。また、このCO_2生成過程は、TiO_2の場合にはTiO_2上に付着した照射生成物と、照射により空気成分から生じたオゾンとの直接的な反応により誘起され、一方Ag担持TiO_2の場合にはAgによるオゾン解離により生じる活性酸素と、照射生成物との反応により誘起されることを明らかにした。照射場への触媒の導入に伴いEB照射空間が減少してガス相における反応量が減少することから、照射場の近傍の非照射空間へのEB誘起低温触媒の導入により最大収率のCO_2を得ることを明らかにした。これらの成果を静電気学会全国大会等において発表した。 さらに、Pt担持Al_2O_3について、TiO_2と同様の照射実験を行った結果、担持Pt無しのAl_2O_3を照射場に設置することにより、照射空間の減少を伴うにもかかわらず最大収率のCO_2生成が観察された。このCO_2生成現象は、放電場との併用では報告されておらず、バンドギャップの大きなAl_2O_3でも活性化可能な電子が存在するEB照射場固有の触媒反応であると考えられる。
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