研究概要 |
申請者らは最近,水溶性ポリマーで弱く安定化された金クラスターが室温・水中において,アリルボロン酸のカップリング反応やアルコール酸化反応に対して高い触媒活性を示すことを見いだした.さらにアルコールの酸化反応では,平均粒径が1.3nmの金クラスターがサイズ特異的に高い活性を示し,同程度のサイズのパラジウムクラスターより高い活性を示すという興味深い結果を得た.本年度は,このように触媒として高い潜在能力をもつ金クラスターの安定化とサイズ選択的な合成方法の確立を目的とした研究を行った.具体的には,第一級ヒドロキシル基をチオール化したβ-CD(HS-β-CD)によって保護された金クラスター(Au:S-β-CD)のサイズ選択的な合成方法の確立に取り組むとともに,Au:S-β-CDの触媒活性について検討した.その結果,[HS-β-CD]/[Au]=2の混合溶液に還元剤を投与すると,Au:S-β-CDの金コアの平均粒径を2nm以下まで押さえ込めることが明らかになった.得られたAu:S-β-CDに対してポリアクリルアミドゲル電気泳動法を適用したところ,さらに高い精度でサイズ分離することに成功し,金コアの平均粒径が2.3±0.4nmと1.0±0.2nmの二つのAu:S-β-CDを得ることができた.各々についてニトロフェノールの還元反応に対する触媒作用を調べたところ,いずれも高い活性を示すことが分かった.グルタチオン保護金クラスターに対する同様な測定との比較から,このような反応はS-β-CD配位子の空孔を利用して進行していることが明らかになった.また,Au:S-β-CDは反応中も安定であり,繰り返し利用できることが分かった.このことは従来の金属コロイドにはない特徴であり,チオールによる強固な配位により金クラスターの安定性を向上させられることが明らかになった.
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