我々はこれまでの研究より、金クラスターが室温・水中においてアリルボロン酸のカップリング反応やアルコール酸化反応に対して高い触媒活性を示すこと、とりわけ平均粒径が1nm程度まで微細化した時に高い触媒活性を示すことを見いだした。本年度は、触媒として高い潜在能力を有するこのような金クラスターの精密合成を目指し、デンドリマーと呼ばれる超分子により保護された金クラスターを対象に、サブナノサイズ(<1nm)の金クラスターのサイズ選択的な調製に取り組んだ。まず第二世代のポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM-G2-OH)と塩化金酸を反応させ、Au+とPAMAM-G2-OHからなる会合体を生成し、この会合体を還元剤により化学的に還元することでデンドリマー保護金クラスターを調製した。得られたクラスターを数時間の遠心分離にかけ、同時に生成した大きなナノ粒子を沈殿させることで、最小成分のクラスターのみを分離した。以上の実験において、反応溶媒と還元剤を変化させることで、最小成分の電子構造を大きく変化させることに成功した。例えば反応溶媒にメタノールを、還元剤にテトラヒドロホウ酸ナトリウムを用いて調製したクラスターは398nmにおいて強い可視発光を示す。また反応溶媒に水を、還元剤にアスコルビン酸を用いて調製したクラスターは524nmにおいて強い可視発光を示すことが分かった。こうした実験より、398nm、458nm、524nmにおいて強い可視発光を示すクラスタ-を、狭い分布幅で、サイズ選択的に調製することに成功した。ジェリウムモデルより予想される金クラスターのHOMO-LUMOギャップの大きさは、金5量体で3.1eV、8量体で2.7eV、11量体で2.4eVである。こうしたモデルと比較することにより、本研究においてサイズ選択的に調製されたクラスターの金コアサイズは、それぞれ、金5量体、金8量体、金11量体であると結論した。
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