研究概要 |
固体表面間の摩擦・摩耗の理解および制御は、効率的な動力伝達による省エネルギー化や部品の耐久性向上など工学をはじめとする幅広い分野において重要な課題である。本研究課題はナノ共振ずり測定を用い、グラファイト表面や金属表面間に潤滑剤(液晶)を挟み,ナノトライボロジーを直接評価し、低摩擦・低摩耗を実現する潤滑のメカニズムの解明を試みることを目的とする。 昨年度のナノ共振ずり測定の結果から、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)表面間におけるシアノビフェニル系液晶(4-cyano-4'-hexylbiphenyl(6CB))は、雲母表面間の場合に比べて50倍以上大きな表面間距離から、構造化による粘度増大を示すことがわかった。 この原因を調べるため、HOPG表面上の液晶分子の走査トンネル顕微鏡(STM)観察を行った。空気中(24℃)で6CBをHOPG表面上に滴下するだけで、規則正しく配向することがわかった。さらに分子論的描像を得るために、分子シミュレーションによる解析を行った。まずファンデルワールス力を考慮した電子状態計算により、6CBのビフェニルとHOPG表面間のπ-π相互作用により6CB分子がHOPG表面に強く吸着することがわかった。この結果を相互作用パラメータに取り入れた古典分子動力学計算により、室温付近で6CBがHOPG表面上で層状構造を形成することがわかった。 またナノ共振ずり測定を金属基板に適用するため、最大高低差10nm以下の平滑なアルミ表面を準備することに成功し、アルミ表面を用いたナノ共振ずり測定が可能となった。 本研究により、固体表面間の距離がnmスケールになると固体表面-液晶分子間相互作用が閉じ込められた液晶の物性に大きく寄与することがわかった。またナノ共振ずり測定の実用的な金属表面への展開が可能となった。
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