研究概要 |
本研究課題『単結晶グラファイトを用いたKr吸着膜の界面摩擦の研究』は,単結晶グラファイト基板と単原子Kr吸着膜を用いて,基板原子配置に対する吸着膜のすべり方向を制御しながら整合膜と不整合膜での静摩擦状態と動摩擦状態とその転移の性質を明らかにすることを目的としている.本年度の研究実施計画に沿い,まず,1)単結晶グラファイト付き水晶の準備を行なった.その後,2)静摩擦状態と膜構造依存についての実験に着手した. 1)膨潤させた単結晶グラファイトを水晶振動子に熱圧着させる技術の開発に成功した.この技術により、水晶振動子の振動方向と結晶のab面の配向を±5度以内で制御することが出来るようになった.製作した単結晶グラファイト付き水晶は,振動方向とa軸とのなす角度が0度と30度の二つである. 2)1)で準備した二つの水晶を用いて,グラファイト基板上Kr吸着膜の界面摩擦の予備的な測定を,ある一定の振動振幅において行なった.その際,二つの水晶を同じセルにセットし同時に測定を行うことで,同じ面密度における界面摩擦の比較を可能にしている.振動方向とa軸のなす角度が0度の系では,基板の周期ポテンシャルの変化が大きいために摩擦が大きくなることが期待される.測定の結果,整合相になるまでは界面摩擦は非常に小さく,整合相から不整合相へ変化する面密度で大きくなるという現象が観測された.一方,界面摩擦が比較的小さくなることが期待される,振動方向とa軸のなす角度が30度の系では,整合相から不整合相へ変化させても界面摩擦は小さいままであった.これらの結果は,単原子Kr吸着膜の界面摩擦がグラファイト基板の原子配置に対するすべり方向に強く依存することを示唆している. 現在,吸着膜の界面摩擦におけるすべり方向依存性について,さらに詳細な測定を行なっている.また,静摩擦・動摩擦状態間の転移について調べるために,振動振幅(外力に関係する)を掃引する実験の準備を進めている.
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