18年度は希ガスのクリプトン及びアルゴンを試料として、最大で原子三百個程度からなるクラスターを作製し、それぞれの元素の1s内殻電子を励起した後の解離イオンの質量電荷比と運動量分布を計測した。このための装置として、飛行時間型質量分析器と二次元検出器を組み合わせた、運動量イメージング計測器を開発した。 得られた解離子イオンの質量スベクトルからは、従来の我々の研究で見出されたのと同様に、X線吸収後のクラスターからは多価イオンに加えて多数の一価イオンが生成すること、一価の電荷を持つイオンはクーロン斥力による激しい解離(クーロン爆発)を経て生成されるため、大きな運動エネルギーを持って生じていることが明らかになった。特に今回新たに行った多重同期計測によって、クーロン爆発が起こる場合には一価イオンのみが生成される事が実験から直接確認され、クラスター中でX線吸収原子から周辺原子への電荷移動が起こっていることが明らかとなった。 更に実験からは、一回のX線吸収で生成する生成イオン数ごとに、生成するイオンの分布と運動量を得ることが出来た。特に運動量分布の生成イオン数依存性は、イオンの質量数ごとに異なり、一価の一量体イオンは生成イオン数が大きくなると共に単調に増加するのに対して、二量体や三量体イオンは生成イオン数の増加と共に運動量が減少に転じる振る舞いが見られ、このことから生成イオンのサイズにサイト依存性が示唆された。即ち二量体などの重い解雇イオンはクラスターの中心近くで生じるために、生成イオン数が増加すると周辺イオンによってクーロン斥力が相殺されるため、運動量が減少すると考えられる。この結果は以前に我々が提唱したX線吸収後のクラスターにおけるサイト依存脱励起モデルを支持する実験結果である。 更に運動量分布のクラスターサイズ依存性を詳細に解析すると、一量体イオンの運動量の生成イオン数依存性が、クラスターサイズによって変化しており、生成する一量体イオンがクラスター中に存在する中性原子によって散乱される事によって運動量を失っていることを示す結果が得られた。 以上のような希ガスクラスターの解離ダイナミクスを運動量イメージング法を用いて観測することで、解離ダイナミクスの詳細な情報が実験から得られた。
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