19年度は希ガスのクリプトンクラスター、アルゴンクラスター、アルゴン・クリプトン混合クラスターそれぞれで最大で原子三百個程度からなるクラスターについて、それぞれの元素の1s内殻電子を励起した後の解離イオンの質量電荷比と運動量分布を検討した。計測には、18年度に開発した運動量イメージング計測器を使用した。 実験からは、一回のX線吸収で生成する生成イオン数ごとに生成するイオンの分布と運動量を得た。運動量分布の生成イオン数依存性がイオンの質量数ごとに異なることはすでにクリプトン・クラスターでも見出されていたが、同様な振る舞いがアルゴンクラスターでも見出された。即ち、一価の一量体イオンは生成イオン数が大きくなると共に運動量が単調に増加するのに対して、二量体や三量体イオンは生成イオン数の増加と共に減少に転じる振る舞いが見られ、生成イオンサイズのサイト依存性を確認した。二量体などの重い解離イオンはクラスターの中心近くで生じるために、生成イオン数が増加すると周辺イオンによってクーロン斥力が相殺され、運動量が減少する形でのサイト依存性が見られると考えられる。この結果は以前に我々が提唱したX線吸収後のクラスターにおけるサイト依存脱励起モデルを支持する実験結果である。 混合クラスターの実験では、クリプトン吸収端近傍で計測を行うことで、クリプトンの吸収のみからの効果を取り出し、上記のサイト依存性について吸収原子を特定した実験から確認した。更に子イオンごとの運動量分布について、実験と簡単な分子動力学シミュレーションの比較により、運動量分布にも明確にサイト依存性が現れていることを確認した。 以上のような希ガスクラスターの解離ダイナミクスを運動量イメージング法により観測することで、解離ダイナミクスの詳細な情報が実験から得られた。
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