従来の電荷制御型半導体に、電子が本質的に持っているスピン自由度の制御機構を付加したスピン制御型半導体すなわち磁性半導体は、デバイスの更なる微細化・省電力化・高速度化に結びつくことが予測されているが、この実用化には室温以上の強磁性を有しかつエピタキシャルに成長制御された半導体作製が求められている。本研究の目的は、磁性元素として希土類元素を微量に添加した磁性半導体を周期的に繰り返し成長させた磁性半導体超格子を作製し、構造ならびに物性を評価することである。1年目の平成18年度においては、まず希土類元素を安定して蒸発供給するために1500℃まで加熱可能な高温蒸発源セル(Kセル)を分子線エピタキシー(MBE)成膜装置に導入した。これにより希土類元素のGdを蒸着成長させることに成功し、その蒸発フラックスは1400℃において約4×10^<17>個/sec・m^2であると見積もった。その上で、MBE成長法によりGdを数%ドープした希薄磁性半導体GaAsGdを作製した。作製試料の断面TEM観察を行った結果、GaAs特有の斜め転移が存在したものの、回折像は単結晶パタンを示し、基板GaAsと良く整合した試料の作製に成功したことが確認された。磁化一磁場曲線の測定結果は、室温において強磁性特有のヒステリシスを示し、磁化と濃度から見積もられたGdの磁気モーメントは自由原子の場合と同等かそれ以上の大きさであることがわかった。この結果は金属Gdにはない長距離交換相互作用がGaAs内のGdに作用していることを示唆している。その原因はGaAsキャリアもしくはGaやAsの3d電子のスピン偏極であることが予測され、今後、放射光を用いた磁気円二色性測定による元素選択的な評価が必要である。
|