本研究では、半導体微細加工技術(MEMS)で加工された電極やカーボンナノチューブ(CNT)で修飾された電極をエレクトロポレーションによる遺伝子導入アレイに応用した高効率な遺伝子導入アレイの開発を目的としている。微細加工電極やCNT担持電極の電場集中が細胞膜に効果的に細孔を形成することを期待している。 今年度は、CNT静電吸着電極の作製およびそれを用いた(位置特異的)遺伝子導入に取り組んだ。カルボキシル基を末端にもつアルカンチオールを用いて金薄膜表面(Cr:Au=1:49(nm))に自己組織化単分子膜を作製した(COOH-SAM)。同基板にカチオン性ポリマーとして分岐型ポリエチレンイミンを静電的に吸着させた後(PEI/COOH-SAM)、混酸(濃硫酸:濃硝酸=3:1)を用いて作製したカルボキシル化CNTを静電的に担持させた(CNT/PEI/COOH-SAM)。CNTの担持はFTIR-RAS(高感度反射赤外分光法)、XPS(X線光電子分光法)により確認された。さらに、SPR(表面プラズモン共鳴)によりリアルタイムでその担持を観察した。緑色蛍光タンパク質(EGFP)がコードされたプラスミド(pEGFP-C1)をPEI/COOH-SAMおよびCNT/PEI/COOH-SAM電極に静電的に吸着させた。pEGFP-C1の吸着はFTIR-RASにより確認された。SPRによりpEGFP-C1の担時量はPEI/COOH-SAMとCNT/PEI/COOH-SAM電極との間で有意な差はなかった。アニオン性のプラスミドはCNT担持電極上のフリーなPEIと相互作用し吸着していると考えられる。プラスミドを吸着させた両電極にヒト胎児腎臓由来(HEK293)細胞を播種し、十分な接着を促した後、240V/cm、10ms、1回の条件でパルスを印加した。48時間後のEGFP発現効率をフローサイトメトリーにより定量した。PEI/COOH-SAM電極に接着した細胞は30%程度の発現効率であったのに対し、CNT/PEI/COOH-SAM電極では50%程度の発現効率であった。CNT担持電極により高効率な遺伝子導入を行えた。さらにCNT担持型遺伝子導入アレイを光パターニングなどを使用し作製した。この遺伝子導入アレイにより、スポット間のプラスミドのコンタミネーションがなく高効率で位置特異的に遺伝子導入が行えた。
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