本研究では、一次構造(粒径、形態)、並びに二次構造(粒子配列)が制御された貴金属(金、白金)ナノ粒子を自己組織的に固体基板上に実現することを目標とする。本年度は当初計画にはなかったが、生体分子の表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法(SALDI-MS)のためのレーザ脱離イオン化支援基板として、形態制御された金属(金、白金)ナノ粒子担持基板が極めて有効であることを新たに発見し、展開することができた。 1.金ナノ粒子積層担持シリコン基板 金ナノ粒子を積層配列させた基板では、アンジオテンシンIの検出感度は数百アットモルであり、金ナノ粒子を単層吸着させた基板と比べ、その感度は約100倍に増大することがわかった。更に、金ナノ粒子の積層数を増やすことにより、従来法では検出が困難とされているインスリン(m/z>5000)やシトクロムC(m/z>12000)などの低分子タンパク質の検出も可能となった.加えて、金ナノ粒子積層基板は、試料を薄膜内に濃縮できるため、濃縮プレートとしての機能をもつSALDIプレートとしても有効であることを見出した。 2.白金ナノフラワー担持基板 SALDI用の新規なナノ物質として、ナノメートルレベルの突起部分を持つ白金ナノ構造体(白金ナノフラワー)を創製した。この白金ナノフラワーを用いて測定したアンジオテンシンIの検出感度は0.7fmolであり、チトクロムCもSALDI-MSで良好に検出できた。これに対し、球状の白金ナノ粒子では、アンジオテンシンIの検出感度は100fmol程度であり、チトクロムCも検出できなかった。これは、白金ナノフラワーに特徴的なナノメートルレベルの突起部分がアンジオテンシンIのイオン化効率の向上に寄与していることを示す。このように、ナノ粒子の形状・構造制御がSALDI-MSに有効であることを見出した。
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