本研究課題は、現在大幅に進歩しているマイクロテクノロジーを駆使し、過冷却流体がマイクロチャネル中で安定に存在できるのかを解明すると共に、その物理的特性を活かした不斉合成反応への応用を目指したものである。 マイクロ空間における過冷却現象の解明を遂行するために、先ずは過冷却状態の正確な評価基準を定義した。具体的には、これまで目視で行っていた凝固時の相転移の確認を、光強度の差を利用して正確に行なった。また、マイクロチップの表面温度とマイクロチャネル中に熱電対を挿入し直接計測した際の両者の温度が相関を持つことを確認することにより、正確な相転移温度を定義した。その上で、様々な条件下水の凝固点を計測し、バルク空間とは異なりマイクロ空間での過冷却現象はチャネル壁面の効果が大きく親水性表面では空間の大きさに関わらず凝固が起こること、疎水化処理した表面内での水の凝固は親水表面よりもさらに凝固点が低くなり、チャネル幅250μm程度以下からその効果は顕在化し、空間の小ささに依存して凝固点が低くなることを見いだした。また、送液ポンプにより流速を持たせた場合でも流速に依存せず凝固が観測され、過冷却流体中での科学プロセスが可能であることを見いだした。さらに、水のみならず四塩化炭素やシクロヘキサンのような非極性溶媒、ジメチルスルホキシドのような非プロトン性極性溶媒でも同様な過冷却効果が観測された。 これらの検討結果から、過冷却流体を利用した極低温下での不斉合成の具体的な反応系を探索し他結果、キラル相間移動触媒を用いた水/有機溶媒混在系過冷却流体中での不斉アルキル化反応が進行し、反応温度によりエナンチオ選択性が変化することを見いだし、より低温で反応を行なう程エナンチオ選択性が向上することを明らかにした。
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