本年度においては具体的に以下の2つの点に焦点を当てて研究を行った。 (1)リンクのコストの負担額を各プレーヤーが戦略的に決定する状況下でのネットワーク形成問題のモデル化と解析 (2)企業経営におけるネットワーク形成戦略の分析のための、いくつかの基本モデルの開発とその分析 具体的な成果としては、まず(1)については、通信遅延や情報遅れなど、各主体が目的地に到達するまでに要する経路の長さに依存して生じる障害の影響を考慮し売上でのネットワーク形成問題を考え、その結論として、リンク形成コストの負担額をその両端のプレーヤー間で戦略的に決定し合う状況のもとではく安定的に達成されるネットワークは社会的に最適なものに限られ、かつそれは必ず形成されることを数学的に証明した。また(2)に対しては、現代の企業競争戦略の分析には価格のみを競争し合う古典的な寡占競争モデルでは不十分であるとの見地に立ち丸品質も同時に決定することを考慮に入れたモデルを新たに開発した.その上で、まずある財を提供する2企業による競争下において、その補完財を提供する第3の企業との垂直提携戦略の分析を行い、競争企業とのバンドルを回避した独占的統合のビジネスモデルが有効であるとの結論を導くことができた。また、ついで競合企業間のブランドロイヤリティに対する非対称性を考慮した上での競争戦略について分析し、消費者の品質志向の強い市場下においては両企業の競争戦略自体に非対称性が存在することが分かった。 以上の結果は、いずれも既に海外論文誌(Economics Letters誌及びEuropean Journal of Operational Research誌)に掲載または掲載決定されており、今後はこれらの成果をインターネット・プロバイダ間の提携戦略等、より実際的な大規模ネットワーク形成問題に対して応用させることを検討している。
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